09.27.09:16
[PR]
04.15.18:18
覗き見
ドアに付いている“覗き穴”を覗くことが、私の趣味。
あれは本当に面白い。
1時間でも2時間でも、休みの日は1日中ドアに張り付いて覗いていることが出来る程、面白い。
ここはマンションの一室。
共同の廊下の様子が部屋の覗き穴から見えるのだが、
例えば、向かい側の住人が外出する様子や、部屋の前を通って行く人の様子、それを眺めているのが楽しい。
それだけではない。
時に、ドラマティックな瞬間やハラハラするようなシーンに遭遇出来ることも、この行為の魅力だ。
ほら、小学生が走って追いかけっこをしている。
ドタドタドタ!っと、鬼でも走ってくるかと思うようなすごい音をたて廊下を行き来しているが、この調子では転ぶだろう。
と、思った矢先に、うまいことこの部屋の目の前で1人が盛大に転んだ。
その子は「うぎゃああっ」と泣いてしまい、どうなるかと見守った。
すると、もう1人の子が泣いている子に、ちゅっとキスをして泣きやませた。
その展開に驚いている間に、子供達は、またもとのように右へと走って行ってしまった。
共同の洗濯場へ向かうと思われる小奇麗な若い女性が、洗濯かごを持って右から左へと消えた。
下着を落としたことに気が付いていないようだ。
酔っ払いが壁にぶつかりながら、左から右へ。
幸い、うちの部屋にはぶつからなかった。
胸まである長い髪で顔を隠した女が、のっそり、のっそり、右から左へ消えていった。
別れるとか別れないとか、痴話げんかをしながら左から右へ早足で過ぎていく、見た目の派手なカップル。
会社帰りのサラリーマンが右から左へ。
髪がツンツンの年齢不詳の男性が左から右へ。
財布を手に握り、サンダルで小走りしていくおばちゃんが右から左へ。
室内にも関わらず日傘をさす、ロリータ服の少女が左から右へ。
それから、それから…。
この日もたくさんの人を覗いた。
誰も、私が見ているなんて気付いていないだろう。
そう思うと、少し優越感が湧き笑みがこぼれた。
何時間張り付いていたのだろうか。
ドアから離れ、ふうとため息をついた。
小腹がすいたので、コンビニへ食べ物を買いに行くことにした。
誰も居ない廊下は、シン…と静まりかえっていた。
私はしばらく、廊下で立ち止まった。
全てのドアから、誰かが、私を覗き見ている気がした。
『覗き見』
(text 服部 YU里江)
PR
- トラックバックURLはこちら