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09.27.09:14

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  • 09/27/09:14

02.08.19:24

幸せの真似事



彼は私を大切にすると言った。大切だと言った。ではどうして、その左手の薬指には指輪があるのか。
私の薬指は寂しいのに、どうしてそんな優しい顔をしているのか。
生ぬるい関係が終わることが嫌で、いつも言えなかった。


恋人が居るということは知っていた。彼から口説いてきたんだ、まさか居るわけがないと冗談で聞いたのに、彼は私に隠し事はしたくないと正直にそう話した。ショックを受けたが、その頃はまだ彼のことをさほど好きなわけでもなかったので、気にしないと答えた。

ただ1つ、条件を付けて。

「私の存在が彼女にバレるようなことはしないで。」


次の次の日、彼と会った。群青色のジャケットにピンクのシャツとネクタイ、ダメージジーンズ。彼の服装のセンスにはほとほと飽きれたが、ひょろっと背の高い彼には不思議と似合っていた。

それまではちょっと買い物をしたりカラオケに行ったり、そんな友達のような仲だったけど、その日はもう違った。

彼はまるで、恋人を抱くように私を扱ってくれた。
体をなぞる指先はひどく優しい。吐息混じりに耳元で囁く言葉は、甘い猛毒。
温かい体温と、すべるような肌の感触。
かすれるような呼吸と視界の中で、彼の名前を呼ぶことは出来たが、好きだとは言えなかった。
彼の歪む顔と、詰まる言葉が大嫌いだったから。

好きとか、愛してるとか、恋人のこと。それは、私が触れてはならない領域だった。分かっていたから触れなかっただけで、いつもその領域に踏み込みたかった。

喉の奥から込み上げては吐けず、喉から肺に戻った言葉は行き場をなくし、心臓を締め付けた。
窒息してしまいそうな程に、苦しかった。


それからしばらく、彼は私に会いたい会いたいと毎日連絡をくれた。朝におはよう、昼に仕事の労いの言葉、夕方に仕事終わったよのメールと、その日1日目立ったことの報告。夜は3時間以上電話。これが毎日続いた。

頻繁すぎる連絡に鬱陶さを感じつつも、嬉しくて、幸せだった。だって私に時間を費やしている間は、私が彼を独り占め出来たのだから。そんな錯覚をしていた。
押せば倒れるもろい幸せだと気付きながら、目をそらした。


「結婚するんだ。」電話越しの彼の声に、私はどんな顔をしたのだろうか。
空っぽの心臓に何か痛みが響いた。

私と体の関係を持っているのだから、てっきり上手くいってないのだと思っていたけど、恋人に何の不満も無い円滑な交際が続いていたようだった。そろそろ結婚するにふさわしい年齢の彼だ。
私はただただ「おめでとう」の言葉だけを吐いた。

めでたい!と、空回るように明るく喜んでみせる私に、彼は言葉を詰まらせた。おめでとうの言葉さえも、私には言われたくなかったようだ。
この関係は、彼が結婚してしまったら終わってしまうのだろうか。その夜は、眠れなかった。


元気がないねと、彼は私の頭を撫でた。
その手をとって握ると、彼の手はとても温かくて、その体温にすべて誤魔化されて騙されてしまいそうになった。

「この関係は、結婚したら終わりかな」
嫌みを言うように低い声で話す私に、彼は詰まらせながらも言葉の毒を盛った。
「俺達は友達なんだから、そんな必要ないよ」

毒に侵されてしまったようだ。
「…幸せ」

言葉は嘘つきで、体温は罠。
手に入らない彼を、私は



『幸せの真似事』
(text 服部 YU里江)
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