09.27.09:20
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02.08.19:00
夢回廊
汚い廊下だ。なんて汚い廊下だろう。
壁にかけてあった鏡を覗けば、金髪の長い髪がぼさぼさに広がっていて、化粧もくたびれた自分の顔が映った。
だがそんな自分の姿など気にしていられないほど、この廊下は汚かった。
足元から、ずっとずっと先まで続くこの廊下。先が見えない。
とりあえず歩いてみると、ゴミからバキバキとかグシャグシャとかいう音がした。
ああ、もう邪魔だ。
私はしゃがんで、ゴミをかきわけた。
落ちていたビニール袋にゴミを詰めていくと、廊下全体にはおびただしい量のゴミがあるのだが、その一帯だけは綺麗になった。
床はエメラルドグリーンをしていた。
ガシャガシャとかバリバリとか、ゴミは色んな音がした。
無心でそれらをビニール袋に詰めていると、途中で、なくしたレターセットが出てきた。
いつぞや、誰かに手紙を書こうとした時に買った、黄色に黄緑のドットが描かれたレターセット。
懐かしさにふけっていると、ふと、懐かしい香りがした。
そこには愛らしい花が一輪落ちていた。花びらの先端だけ紫色をしている白い花。
昔どこかで嗅いだ香りだが、記憶の端に埋もれてしまったのか思い出せなかった。
構わずゴミ袋に詰めていく。
ガチャンガチャン、袋にはまだまだゴミが入った。
キラリと光る、小さなものを見つけた。
見たことも無い、持っていたのかも分からない、涙の形をしたラインストーンが出てきた。
1つ拾うと、もう1つ。手のひらに集めたそれはとても綺麗で、転がしたり眺めたりしているだけでもうっとりした。
雪のようにも見えたし、人魚の涙のようにも見えた。
とにかく綺麗だ。
なくさないようにと、ポケットに詰めてまた作業をする。
無我夢中に、一心不乱に、ゴミを詰め続けた。
どこまで続くのだろう、どれだけゴミはあるのだろう。
何時間ともいえぬ膨大な時間、ひたすらゴミを詰めることだけに集中した。
すると、ゴンッと音と共に頭に衝撃が走った。
廊下の端っこだった。端に来たのだ。
長かったその廊下、自分の片づけた道を振り返ると、目が覚めた。
呼吸をしていなかったのか、ハッと吸いこんだ空気で生き返った感触がした。
洋服を着たまま寝ていたようだ。
鏡を覗けば、金髪の長い髪がぼさぼさに広がっていて、化粧もくたびれた自分の顔が映った。
時計は朝の8時を指していた。
やってしまったと、急いで出社の準備を始めたが、今日は休みではないかと気付き、腰を落ち着かせた。
頭をかき、ポケットに手を入れると、何粒かラインストーンが出てきた。
涙の形をした、キラキラと光るそれは、何度見てもうっとりする輝きだった。
観賞にも飽きた頃、机にそれを置き、朝ごはんを買いに近所のコンビニへと赴いた。
そういえば、ここのところたくさん泣いた。
ふられたり、仕事で失敗をしたり、精神的にグシャグシャになっていた。
ただ、晴れているせいか、風がびゅうっと吹き荒れているせいか、心はスッキリしていた。
いつもではありえないくらいゆっくり歩いて、コンビニでは好きなものを好きなだけ買った。
ビニール袋を大きく揺らし、またゆっくり歩いて帰った。
走り出すのも悪くないと思うくらい、気分が良かった。
家に着くと、テーブルの上に置いておいた、涙の形のラインストーンが消えていた。
床を見渡して落ちていなかったので、探そうとはしなかった。
『夢回廊』
(text 服部 YU里江)
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