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09.27.09:12

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  • 09/27/09:12

08.19.13:23

夏の景色。



「死ぬほど好きだった…」

「死んでないじゃん。」

そう言うと、彼女はまた泣いた。正直うざったい。ゆるく巻いたミディアム丈の髪が、しゃくりをあげるたびに優しく動いた。表情は見えず、泣き声が聞こえるだけ。

夕暮れで、街は赤い。べたつく湿気、湿気で上がる気温。それだけでも気分を害すのだから、これ以上、いらいらしたくは無かった。「ごめん」と言う気も、頭をなでてやる気も起きないほどに、いらいらしていた。せめて冬なら、もっとロマンチックに別れ話も出来たのかな、と、思考はぼんやりとゆっくりとしか働かなかった。全部、暑さと夏のせいにしてしまいたかった。

さよならのひと言も無く、その場から離れた。追いかけて来てすがられるかと思ったが、彼女は立ちつくし泣いているだけだったので、こちらには好都合だった。

夕立でもくるのか、雨の匂いがした。街の赤、湿気の感触、涙、雨の匂い。不快な景色の中に、ひぐらしの声も加わる。夏の景色の中に、彼女も思い出も、どろどろに混ざり合って溶けていった。きっと来年の夏になったら、また思い出すのだ、彼女のことを。

夏の景色は呪いだった。




『夏の景色。』
(text 服部 YU里江)
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