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09.27.09:11

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  • 09/27/09:11

12.12.23:36

マリオネット

 

 マリオネットは忘れていた。自分が糸で繋がれているということに。
無理もない、生まれた瞬間から糸という存在に繋がれ、動かされてきたのだから。


彼女は赤いドレスを纏った姿が自慢だった。
ステージに立てば「美しい」ともてはやされ自身の姿に自信があった。

もっとたくさんの人々に自分の姿を見てもらいたい。褒めてもらいたい。
そう思うようになっていた。


しかし彼女の主人といえば、死んだような目をして、無精ひげを生やして、恋人に最近フラれてクマをつくっている冴えない男である。
こんな主人のもとに居ては、自分は一生この狭い視野の中でしか生きられない。

一度そう思ってしまうと、主人には不満しか持てなかった。
くすぶっていたくは無かった。だから彼女は糸を切ることにした。

プチン、プチン。
右手の糸が切れ、左の足の糸が切れる。糸は全て簡単に千切れた。


乾いた音と共に、彼女の体は地面に落ちた。
石畳の床は痛く冷たかったが、彼女は満足していた。

さあ、これで私は自由だ。もっと広い外の世界へ行けるのだ。


足を動かそうとしたその時、彼女は目にした。


あの煌びやかな衣装を纏った人形は何だろう。
サファイア色のドレスに金のレースをあしらって、大きく膨らんだドレスはとても麗しい。

彼女は自分の自慢のドレスが色あせていることに気付き、恥ずかしくなった。
燃えるようなルビー色のドレスだったのに、今は見る影もない。

あれが自分の代わりなのだろうか、物悲しくなり目を背けようとした。
顔を覆うとした。
走り去ってしまおうとした。

何も出来ない。
華麗に舞い人々を喜ばせたその身体は、冷たい石畳の上に叩きつけられたままだった。


助けてちょうだいと乞うても届かず、主人は代わりの人形を手にして客席へと向ってしまった。


外の世界で自由になりたかっただけだったのに。
冷たいそこで、彼女はやっと気がついた。





『マリオネット』
(text 服部 YU里江)
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