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09.27.09:18

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  • 09/27/09:18

08.19.19:55

その扉


 幽霊とか、UFOとか、怪奇現象とか、奇跡とか。世の中には色んな不思議な出来事がある。ならばそれが、今、ここで起こったとしても、なんら不思議なことではないじゃないか。むしろ起こらないほうが不思議なのでは。
 ごくり、と生唾をのみ、その扉に手をかけた。キィッと扉が鳴り、仕切られていた空間と空間が繋がる。空気が相互する瞬間のその先に、答えは待っていた。


 平均して30分くらいが自身の入浴時間である。湯船からあがり、シャワーで再度体を洗い流し、いざ浴室から出ようというその瞬間、考えがめぐった。

もしこの扉の向こうが、何らかの原因で異次元に繋がっていたらどうしようか。

異次元に繋がっていなくとも、次元が歪んで、別の場所に繋がってしまっていたらどうしようか。例えば、あるマンガの世界に入り込んでしまうとか、誰か違う人の家に繋がってしまうとか。そうしたらなんと気まずいことだろう。入浴していたといえど、裸だ。せめてタオルがなければ、その先の世界で会う人に、なんと言い訳をすればよいのだ。ただの露出狂と間違われては、元も子もない。2次元だろうが3次元だろうが、ブタ箱行きは確実だ。

しかし、いつまでも浴室にいるわけにもいかない。
「ええい!」
覚悟を決めて、扉のノブを握った。なるようになれだ。未だかつて味わったことの無い緊張感で、浴室の扉を開けると、そこは、
いつも通りの脱衣所だった。

ふぅ、と、ひと呼吸し、何事も無かったようにタオルで水気を拭き、寝巻に着替えた。
しかしまだ気は抜けない。この脱衣所の扉を開いたら、もしかして、南極に繋がっているかもしれないではないか。もしくは、砂漠に繋がっている可能性だってある。100パーセントがこの世に存在しないのなら、無いとは言えない可能性だ。

もし別世界に繋がっていたとして、この、風呂上がり寝巻姿で対応出来るのだろうか。対応出来る土地だと良いが、何かのパーティー会場だったり、気候が著しい世界に飛んでしまっては、どうすることも出来ない。

ドキドキと心臓の音が聞こえてきそうな空間。本来、脱衣所では流れるはずのない空気感だ。

ガチャリッ。

ノブを回すと、そこは、またいつも通りの家の中であった。と安心する同時に、少々疲れが。自身の過ぎた妄想に「ありえるわけがない」という言葉を重ねた。100パーセントだって存在するのだ。濡れた髪から水滴が落ち、寝巻にシミを作る。しかしドライヤーで乾かすのは面倒で、風邪をひこうがどうしようが関係無いと、そのまま自室でくつろぐことにした。

自身の妄想を自嘲しながら廊下を進み、自室の前に辿りつく。

やはり立ち止まった。「…ありえない。」
ドアノブを回す手が汗ばんだ。

扉を開いた時に起こる風が、前髪を揺らした。



『その扉』
(text 服部 YU里江)
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